「そう、谷さんは、かんたんに手に入れられるんだから。だけど、ぼくがトランペットを手にいれるほうほうは、かりることだけです。むずかしかったんですよ。これをかりるときって。」…
海辺のそばに住むジャズピアニスト・木村さんの前にあらわれた一匹のタコ。名前はジロー。彼は木村さんの友人の谷くんのトランペットを失敬して密かに練習していたのでした。果たして夢のセッションがかなう日は来るのか?... 東京から四時間ほどという和歌山あたりと思しき海辺の町を舞台にした奇妙で愛らしいファンタジー。話の筋だけでなく、人物の名前の呼び方やタコのジローの口調、海の自然の描写や色の表現など、独特のユーモアと品、そして詩情にあふれ、他に見ない魅力を持った名作だと店主は個人的に思います。ジャズファンの大人が読んでも何がしか心をつかまれるのでは。
著者の高浜両氏は、おそらく姉妹ではないかと思われます。書誌情報によれば、物語担当の直子氏は寡作ながら他にも作品はありますが、姉妹での共作はこちらとあと1点とのこと。本作は、その貴重な第一作となるようです。とにかくファンシーでファニーな70年代の名品。絵本ではなく、児童むけの読み物となります。
*背の上方に数ミリの破れあり。それ以外は古書として標準的な状態です。
作:高浜直子
絵:高浜正子
発行:アリス館
1975年初版
186mm x 252mm / 71p