「ふるさとがふたつあると、つねづね思います。生まれ育った町と働いてきたかずかずの工場の、ふところの深さをおもいます。」
馬込文士村があったことでも知られる、現・大田区大森界隈。もうひとつの顔は、海側に広がる町工場の数々。そこで旋盤工として生き、作家としても暮らして来た著者のいわば自分史語りのようなノンフィクション。「ふるさと」と語る、働き口である工場で見たひとつひとつの情景が、日本最大のものづくりの現場の歌であるとともに、一人一人の職人の労働と土地への賛歌となっている気がします。安野光雅による装丁・冒頭の地図のカットも素晴らしく、かつ、おびたたしい鉄クズの写真を見返し部分に配したデザインといい、のちに文庫化もされますが、初出のこの単行本の形で楽しんで頂きたいと個人的にも思う一冊です。
*ダストジャケットに若干の黄変と、小口にシミあり(写真は参考として別のものとなります)。他、経年並みにて古書として標準的な状態です。帯付き(帯は複数あるようでそのうちの1つになります)。
著者:小関智弘
装丁:安野光雅
発行:朝日新聞社
1981年初版
帯付き
136mm x 195mm / 236P